<清水おかべクリニック>
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耳垢の乾・湿の違い(耳垢型)は、人類学の上で大きな鑑別点の一つに数えられています。
我々日本人は乾燥耳垢の人が多いので、耳垢はカサカサしているのが当然だとか、ともするとヤニ耳は病気なんじゃないかというような考えを持ってしまう人もいるようです。しかし人類全体を見てみると、多数派を占めるのは湿性耳垢の方で、乾燥耳垢はむしろ少数派なのです。
哺乳類全般では、耳垢は湿性である事が普通です。
霊長類(チンパンジー)では、湿性の他に少数の乾燥耳垢を含む二系統となっています。
そして我々ヒトも湿性と乾燥の二系統ある訳ですが、耳垢型の分布には人種間で著明な差があり、進化の過程で何らかの自然淘汰が働いたのではないかと推測されています。
ヒトは大きく3つの人種に分けられます。ニグロイド(いわゆる黒人種・アフリカ人)、コーカソイド(白人種・ヨーロッパ人)、そしてモンゴロイド(黄色人種・アジア人)です。
このうちニグロイド、コーカソイドはほとんど湿性耳垢であることが知られています。欧米では、耳垢は柔らかい物というのが常識です。英語で耳垢の事をEarwaxと言いますが、確かに湿った耳垢はワックスのように見えなくもありません。
モンゴロイドは古モンゴロイドと新モンゴロイドとに分けられます。
両者の違いは、氷河期時代における環境の相違から来たと考えられています。暖かな気候で暮らした古モンゴロイドと、寒冷地に移住した新モンゴロイドとの間で、遺伝的な差が生じたのです。
古モンゴロイドは温暖な南方で暮らした人々です。ニグロイドやコーカソイドに似た特徴があり、比較的長い手足・濃い体毛・彫りの深い顔・二重まぶた・パッチリと大きい目・濃く太い眉・そして湿った耳垢を持ちます。
それに対し、アジアの東北地方(今のシベリア近辺)に移り住み寒冷地適応を遂げた新モンゴロイドは胴長短足・丸みを帯びた体型・薄い体毛・扁平な顔・一重まぶた・細い目・薄い眉・そして乾いた耳垢とを持ちます。寒冷地で生活するには体表面積を少なくし、放熱を押さえた方が生存に有利です。体毛が薄いのも水分を含んだ毛が凍るのを防ぐ為であると考えられています。耳垢の乾燥もこれと同じ考え方が出来るでしょう。
遺伝に関する研究の結果、湿性耳垢は乾燥耳垢に対し常染色体優生遺伝する事が判明しています。その為耳垢型の違いは、人類学上の研究項目として重要視されると共に、親子鑑定などでの鑑別項目にも数え上げられています。
各人種の湿性耳垢の割合を調べた報告を見てみると、大体以下のようになっています。 アジアでは南の方が湿性耳垢が多く、北へ行くほど少なくなる傾向がある事が解ります。
黒人 |
ヨーロッパ人 |
ミクロネシア人 |
台湾人 |
日本人 |
モンゴル人 |
韓国人 |
中国人 |
ツングース人 |
100% |
100% |
60% |
40% |
16% |
12% |
8% |
4% |
希 |
多民族の集合国家であるアメリカでは、人口の98%近くが湿性耳垢であると言われています。
その中で原アメリカ人(いわゆるアメリカインディアン)は乾燥耳垢が多くを占めており、彼らの多くが新モンゴロイド由来である事を伺わせます。
日本人の起源は、湿性耳垢の古モンゴロイドと、乾燥耳垢の新モンゴロイドとの混血であるのだろうと考えられています。
日本列島にまず移り住んだのが古モンゴロイド、湿性耳垢の人々です。周辺の東南アジア(ミクロネシア・ポリネシア)からやってきたという説と、東北アジアからやってきた上古石器時代人であるという説と2つあるようです。彼らの事を普通我々は縄文人と呼んでいます。アイヌは縄文人の直系の子孫ではないかと考えられています。
そして遅れて日本にやってきたのが新モンゴロイド、乾燥耳垢の人種であり、弥生時代に東北アジアから渡ってきた人々であると考えられています。彼らの事を我々は弥生人と呼んでいます。古墳時代以降にも沢山の新モンゴロイドが大陸(東北アジア)から渡来してきた事が解っています。
これらの人々の間で混血が進み、今の日本人となっている訳です。日本人全体では湿性耳垢は16.3%程であると言われていますが、細かく見てみると地域によって差があります。アイヌ人は湿性が87%と大変多かったのですが、和人との混血が進んで純血のアイヌが少なくなるに従い湿性の率が低下しています。琉球人も湿性耳垢が多い(33〜45%)事が知られており、古モンゴロイドの比率の高さを伺わせます。
このように日本人の起源を研究する上で、耳垢型の違いは大きな鑑別点の一つとなっているのです。
耳をかきながら、自らのルーツについて思いを馳せる・・・
そんな耳掃除も、乙な物かもしれません。
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